ドメーヌ・タカヒコ メーカーズディナーとワイナリーツアーに参加してきた

5.0
旅行

 人生初のワイナリーツアー参加。それがドメーヌ・タカヒコになるとは、、、人生、なにがあるか分からないものです。本当に素晴らしい体験で、おそらく一生思い出に残るであろう旅行になりました。ニキヒルズワイナリー、モンガク谷ワイナリーも見学させてもらいました。

 ツアーは3月2日から。初日の夜にメーカーズディナー、2日目がワイナリーツアー。冬の北海道に行くのも初めて。寒かったー。

 冬の新千歳空港。-6℃くらいだったかな?写真だと天気良さそうに見えるけど、かなり風が強く、着陸前に結構激しく上下左右に揺さぶられ、そのためか嘔吐しているチビっこあり。大人でも気持ち悪くなるレベルだった。

 札幌も雪が降っていて、ホテルの窓から見える景色も雪で霞がかって遠くまで見通せず。

メーカーズディナー

 そんなこんなでメーカーズディナー。

 今回は24人のツアーだったので、人数分用意されたグラスを眺めるだけでもなかなか壮観。

 ボトル眺めるだけでもワクワクが止まらない!

 そして本日のメニューおよびワインリスト。

 このワインに合わせる料理を造ってくれた料理長に感謝!ほぼほぼ道外(もしかしたら全員だったかも)から、ワイン目当てで札幌まで来るような人たちですからね。私も含めてですが、だいぶアレな方たちかと思いますので。

 ですがマリアージュはどれも完璧でした。事前にドメーヌ・タカヒコで研修しているマスターソムリエの高松亨さんと密に打ち合わせしていたようで、どれも本当に素晴らしいペアリングで、、、そして料理長の苦労がしのばれる味だった。

 まずはシードルで乾杯!かなり酸度が高く、かつ苦みも強く感じるシードルだったので、フロマージュブランの優しいほんのりとした甘みがとても良いペアリング。そこにガレットの香りも合わせていただく。美味しくない訳が無いですね。

 昆布由来の出汁がドメーヌ・タカヒコのワイン特有の出汁感にすごく良く合う。これはこのペアリングに限ったことではなく、出汁の風味のある料理だったら、ドメーヌ・タカヒコのワインはなんにでも合うんだと思う。料理とワインがお互いが補完しあって、そこでしかありえない世界で唯一の文化が醸成されていく。それがテロワールというものですね。

 曽我さんの話を聴きながらのディナーだったけど、曽我さんが醸造しているのは、自分の追い求める理想形をストイックに追い求めるワインではなく、誰もが造れる方法でワインを造ることによって、近所の普通の農家のおっさんがワインを造ったりできる、そんな文化や社会、次の世代に繋いでいくべき歴史を醸造しているんだなと。ブルゴーニュとかオーストリアのホイリゲとか、そんな感じなんでしょうか?行ったことないから分らんけど。

 そしてちょいちょいブルゴーニュの名もなきおっさんをディスって笑いを取る曽我さん。おもしろい。

 白いんげん豆のムースの滑らかな口当たりに貝の旨味、パンチェッタの香ばしい香り。おそらく旨味をもっと出そうと思えば出せるんだろうけど、ワインとのバランスを考えて優しい味わいになっている。今回のコース料理はすべてワインとの相性がしっかり考慮されていて、多角的で複雑性があるんだけど、どこかの要素が突出してしまうとワインとのバランスが崩れてしまうので、どれも優しい出汁感のある料理だった。素晴らしい。

 今回いただいたワインで、これが一番美味しかった。めちゃめちゃうまかった。

 ナナツモリのピノ・ノワールより、酸・タンニンとも抑えられているので、ドメーヌ・タカヒコらしい出汁感が素直に感じられる、本当に唯一無二のワイン。じんわりとした旨味が口いっぱいに広がってるのを、酸もタンニンも邪魔することが無く、また香りも控えめなので、旨味に程よく寄り添って旨味を引き立てるような感じ。どこまでも優しくて飲み疲れしないので、ずっと飲んでいられる。すごかった。

 ロゼに対しては、味わいに対して酸味ばかりが際立ったデイリーワインといった印象しかなかったのですが、その印象は完全に覆りました。

 ナナツモリ ピノ・ノワールより、さらに入手困難らしいので、今後口にできる機会は訪れないかもしれませんが。。。世界一のレストランともいわれる、”noma”には卸しているようなので、nomaに行けばいただけるかもしれませんね^^。

 もうこの辺はだいぶ疲れてきてまして、、、美味しかったのは覚えています。

 そしてヴィンテージ違いのナナツモリ ピノ・ノワール飲み比べ。贅沢過ぎる。贅沢が過ぎる。。。

 デザートワインまで完璧。

 今回のツアーでの最大の収穫は、曽我さんの話をじかに聴けたことだと思います。目の前で話を聴くのは、やはり映像で観るのと訳が違う。ワインの話をしていたのですが、含蓄に富む話ばかりだったので、聴き方によってはいかようにもその人の人生に反映できそうな、普遍性と示唆を含んだ素晴らしい話だった。

 曽我さんは長野で造られている野沢菜や味噌のようにワインを造りたいとの事。食品工場で大量に造られているものの話ではなく、各家庭がその家の造り方で造る野沢菜や味噌。その地域にそれらを造り出す気候や風土、歴史と知恵があって、そこに生まれ育っていれば自然と造るようになるもの。

 ブルゴーニュでは普通の農家のおっさんが造っている自家製ワインも美味しいらしい。それに感動した曽我さんは、どうしたらこの様なものが造れるようになるのか聞くと、帰ってくる答えはいつも、「ここがブルゴーニュだからさ。」というものだったそう。その答えに「ヤツらムカつく」とディスってはいたものの、まさにそれこそが長野の各家庭での野沢菜な味噌造りのようなもの。それが”文化”であり、ワイン用語を使えば”テロワール”そのもの。

 そのような文化を醸成するために、曽我さんは惜しみなく・かつ押しつけがましく近所のおっさんにもワイン造りを教えるし(ワイン好きな人からすればめちゃめちゃ羨ましく感じるけど、近所の人からすれば有難迷惑この上ない話で、実際、「そんなもん造ってる時間なんか無え!」と怒られながらも一緒にワイン造っているらしい)、余市のワイン造りを持続可能なものにするために、未来へと繋いでいくためにドメーヌ・タカヒコでの研修の条件として、家族で移住&子供は最寄りの小学校に入学というものがあるそう。

 自分のワイナリーがどうこうという話は少なくて、自分の周りにいる近所のおっさんがどうしたら豊かになれるかとか、余市が今後衰退していかないために自分ができることは何かとか、日本ワインはどうあるべきかとか、視座の高さに圧倒される話ばかり。曽我さんはワインを造っているというより、ワイン造りを通して文化や歴史、テロワールそのものを醸成しているんだなと強く感じた。

 そしてそのような文化を醸成するためには、その辺の普通の農家のおっさんがワインを造る様になる事が必要で、そこで重要なのは、”ルーズさ”であると。その人たちはワイン造りが生活の中心ではないのだから。生活の糧は他にあるのだから。

 だったらブドウを収穫してすぐ次の工程に進むのではなく、収穫したらとりあえずタンクに投げ込んでおいて、次の工程に進むのは雨が降って畑仕事が休みになった日でいいじゃないかと。それが2日後になるか7日後になるか分からないけど、それも含めて、そのヴィンテージのワインになるんだと。

 ワインは年1回しか造れないため、曽我さん自身、20~30回しか経験が無くて、正解なんか分らんと言っていた。

 一般的にはあまり良いとはされない、”ルーズさ”を取り込みながら、それだけにとどまらず、”ルーズさ”をも利用して、”多様性”の担保に一役買わせる。曽我さん、たくましい。ナナツモリの貴腐化したブドウから造ったブラン・ド・ノワールも、そのようなすべてを利用しようとする姿勢から生まれたようだし。本当に学びの多い話。

 またヨーロッパと日本の水の違いについても話していた。日本の様に山と海が近くにあって、山に降った雨が短時間で海にまで流れ出す地形というのは珍しいとのこと。土に触れている時間が短いので軟水になる。ヨーロッパは大陸が広く(ドナウ川は10ヶ国にまたがっていますし)、土から多くのミネラル分が溶け出して硬水に。そして硬水の方が凝縮感のあるブドウを作りやすい。

 日本でもブドウにストレスを与えれば凝縮感のあるブドウを作ることは可能だけど、それだと日本でワインを造る事の意義が薄れてしまう。曽我さんは軟水の特性を生かした、日本でしか造れないワイン造りを目指していて、ドメーヌ・タカヒコで感じられる、”出汁感”もそこに由来している。出汁は軟水じゃないとうまく抽出できないので。

 帰ってから調べたところ、日本は軟水だといっても地域によって硬度に違いがあって、北海道は日本の中でも特に硬度が低い模様。これもドメーヌ・タカヒコを支えているものであると同時に、テロワールというものなのでしょう。

 この水の話を聞いて、とあるアーティストのアメリカでの体験談を思い出しました。そのアーティストは戦後のアメリカで勃興した”抽象表現主義”に感化され、渡米して抽象表現主義的な作品を制作、ある程度認められるようになったんだけど、「で、なんで日本人が抽象表現主義的作品作ってるの?」と言われ、ハッとしたという話。質問した側はただ素朴に思ったことを口にしただけだったんだろうけど、アイデンティティーに根ざしていないが故の根無し草の様な感覚を覚えたという。自分の出自を無視する事も過度に縛られる事もないけど、そこから自然に出てくるものの方が、ある強度を持ちうるのでしょう。それはつくり出すものではなく、常に・既にそこにあるものなのだと思います。それを素直に表現することが、実は多様な表現をすることに最も近いのではないか。そんな気がします。まぁ素直に表現するという事が一番難しいというツッコミは無しにしておいて、、、

 引き続きアートの話をするなら、現代日本を代表するアーティストの一人、村上隆の功績のうちの一つは、ヨーロッパおよびアメリカ中心の美術史において、日本の文化・歴史をその言説と共に接ぎ木することによって、新たな地平を開かせたことにあると思っています。 

 そしてこれはそのまま曽我さんのワイン造りに通じるのではないかと。曽我さんの功績のうちの一つは、ヨーロッパ中心のワイン造りにおいて、日本の文化・歴史をその言説と共に接ぎ木することによって、新たな地平を開かせたことにある。

 ”美術史”を”ワイン造り”に書き換えれば、まさに曽我さんがやろうとしていることそのものなのではないでしょうか。

 長くなりましたが、そんなことに思いを馳せながらの有意義なメーカーズディナーでした。

 翌日はワイナリーツアーです。

ドメーヌ・タカヒコ ワイナリーツアー

 雪の中のドメーヌ・タカヒコ。たいへん簡素な作りです。

 雪に埋もれた”ナナツモリ”のブドウ畑前で曽我さんの説明を聞く。畑も醸造も多様性が大切とのこと。多様性こそが重要なので、それが担保できるなら多少の農薬も使っていいのではないか、という見解でした。人だってたまには栄養ドリンク飲むでしょと。それによって、腸内細菌がガラっと変わってしまうなら大問題だけど、そんなことはないでしょと。これにも文化の醸成に必要な、”ルーズさ”を保ちつつ、多様性を担保する曽我さんの哲学が垣間見えた気がした。

 そして自然は常に既に多様であるので、そこにいる菌も酵母も殺さず、そのまま生かす。既に多様なのだから、造りは極力シンプルに、、、というか普通の農家のおっさんでも造れるよう、適当に^^。この”適当さ”の塩梅を、長野における野沢菜や味噌造りのようにしたいのかと。

 ワイナリー内に移動して話の続き。ステンレスタンクもあるけど現在は使っていない様で、基本的には樹脂タンクで発酵を行っているらしい。一つには安価で誰でも気軽にワイン醸造がはじめられるように、他の理由としてはクリーンに造りすぎることによって、菌や酵母の多様性を殺してしまうから。

 使う道具一つ一つからも感じられる、曽我さんの生き方と哲学。

 筋の通った話に感銘を受けっぱなし。このツアーに参加してよかったと心から思いました。ドメーヌ・タカヒコ目的で参加したツアーだったので、これ以降はさらっと行きましょう。

 そんなこんなで2日目の午前中にドメーヌ・タカヒコのワイナリー見学を終え、昼食はニキヒルズワイナリーで。ちょっと時間が余ったようで、”ワイン神社”と呼ばれる仁木神社に寄り道です。

 仁木神社。階段左手前にワイン樽が見えます。

 冬なので水は出ませんでしたが、手水舎の蛇口はワインボトル(ニキヒルズワイナリーの”はつゆき”)、灯篭にはグラスとボトル、御朱印にもボトル。

 時間が来たのでニキヒルズワイナリーに。

ニキヒルズワイナリー

 ランチメニュー。

 どんな処理をしているのか分かりませんが、シカ肉が素晴らしかった。ジビエなのにめちゃくちゃ柔らかくて、しかも臭みもまったくない。牛肉なんじゃないのと疑いたくなるレベル。本当にびっくり。

 ランチにペアリングしたワインたち。どれもクリーンな造り。

 食事をとった場所からワイン畑が一望できる。

 左の写真の建物が昼食をとったところ。右の写真の扉からワイナリーに入っていきます。

 ドメーヌ・タカヒコより生産本数が多いので設備も大がかり。ワインから感じたクリーンな印象の通りの醸造設備。規模が大きくなると品質も安定させる必要があるのでしょう。

 これはスパークリングワインに栓をする機械。

 発酵ゾーンの先にあった熟成ゾーン。照度も抑えられていて、私たちが想像するカーヴそのもの。樽の間を歩いているだけで楽しい!

 カーヴ内にあるイベント会場。併設のホテルの宿泊客にディナーもここでって言っていたような。。。両脇にある樽はディスプレイ用で中にワインは入っていないとのこと。ただワインの染みは付着していたので、バリックの古樽なのかもしれません。

 そしてモンガク谷ワイナリーに移動。

モンガク谷ワイナリー

 裏手からの写真ですが、こちらもこじんまりとした小規模なワイナリー。現在、醸造しているのは白ワインのみで、複数の品種を混植・混醸して造っています。オーストリア伝統の”ゲミシュター・サッツ”と同じ醸造方法でしょうか。

 1階部。3枚目の写真の大きな扉を開くと、B1階と空間的に繋がります。扉の脇の凹んだスペースにある銀色のタンクのようなものが圧搾機で、ここで絞った果汁を重力でB1階にあるタンクまで運ぶ構造。

 B1階のタンク及び樽。

 黒ブドウも混醸されているのでオレンジワインの様な色調。イタリアの冷涼な産地のワインに感じるような、かなり強めの苦みを感じる。また混醸・無濾過・野生酵母発酵で造られているようで、それに由来する複雑性やうま味があり、またスケール感と長い余韻をもたらしてくれるんだけど、それが最後までダレずにおいしく感じられるのは、高い酸度が全体を引き締めているからこそ。すごくいいワイン。

 また混醸の特徴としてあるのが、各ブドウがそれぞれの特徴を出すのでフードフレンドリーなところ。今回はワイン単体でいただいたが、黒ブドウも白ブドウも含まれているので、守備範囲はとても広そうだと感じた。

 そんなこんなでとても有意義な旅でした。伺ったワイナリーじゃそれぞれに特徴的で、どこも素晴らしい経験をさせてもらった。

 やっぱりニキヒルズワイナリーの様にある程度生産本数が多くなると、クリーンな造りになっていくんだろうし、ドメーヌ・タカヒコやモンガク谷ワイナリーの様なところでは、特徴的なワイン、人によっては癖のあるという人もいるであろうワインが造られるんだなと。

 それもまたワインの多様性で、おもしろいところだなと思った次第。

 機会を作って、いずれまたワイナリーツアー参加してみたいですね。

 それではアニッチャ!!!

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